消防法の改正概要
 大規模高層ビルや商業施設等につきましては、従前より防火管理者を定め防火管理業務を実施してきましたが、消防法の改正(平成19年6月)により、大地震発生時おける災害に対応できる防災管理者を定め、平成21年6月1日より防災管理業務も併せて行わせなければならなくなりました。これに伴い管理権原者には以下の項目について具体的に義務付けられました。

1 消防法改正の背景

 一定規模・高層建築物の特徴は、多数の者が利用するため消防防災上のリスクの大きい防火対象物である。これらの防火対象物においては、群集心理によりパニックが生じやすいこと、避難時の移動距離が非常に長くなること、地上とのアクセスが構造上大きく制限されること等から、適切な対策が施されていない場合の消防防災上のリスクは極めて大きく、社会公共への責任の観点から一定の措置を講じることが求められる。また、その後の応急活動は高度・複雑なものとなるため、防火対象物全体の状況に応じた組織的対応が不可欠であります。

 

大規模地震に対応するため、事業所における消防防災体制を強化と自衛消防力を確保することが求められ、各事業所においては防災計画の作成や訓練の実施は実施されておらず、内容あっては不十分なところが多い現状です。 震災時には、火災と異なる対応が必要であり、当該地域で同時多発的に火災や倒壊建物からの救出事案が発生し事業所における自助体制の確立が急務となっています。

 

 また、防火対象物の大規模・高層化等により急激に多数が利用する大規模・高層化された防火対象物が増加しています。このような防火対象物では、災害時における消火活動、通報連絡、避難誘導、救出・救護について、より高度・複雑な対応が必要となり、適切な対策が施されていない場合の消防防災上のリスクは極めて大きく、事業所の組織体制や活動計画にはなお未整備の部分が多い現状であります。

 

2 消防法改正の経緯

  大規模地震や首都直下地震の発生の切迫性している状況を踏まえ 、平成19年6月22日に「消防法の一部改正する法律」が成立公布され新たに一定規模・高層建築物について、自衛消防組織の設置と防災管理者の選任及び火災以外の災害に対して消防計画の作成が義務付けられ、その内容は次のとおりである。


(1)消防審議会の答申
  この様な現状を踏まえ、多数の者が利用し、円滑な避難誘導が求められる大規模・高層の防火対象物について、消防防災上のリスクに       伴う社会公共への責任のから、大規模地震等に対応した「自衛消防力を確保」するため、大規模地震等に対応した消防計画の作成及び自衛消防組織の設置を義務付けるよう、消防法及び同法に基づく政省令等を改正する旨の消防審議会の答申がされました。


  また、「事業所における消防計画の作成を支援するとともに、消防機関における当該事務の適切な運用を図るため、地震特有の対応事項を中心として、消防庁においてガイドラインの作成や情報提供等を行うことが必要である。」との提言がされた。 「業所の行う防災管理が地震対策の新技術等を踏まえた実効的なものとなるよう、防災管理者等に対する講習内容の充実とともに、ガイドラインの作成や情報提供等を行う事になりました。

 

(2)ガイドラインの作成
  ガイドラインの作成は、改正消防法に基づき、大規模地震災害等に対応した消防計画を作成するに当たっての手引き書であり、地震災害等に対応した計画事項及び自衛消防組織の整備に係る共通的な内容を中心となっています。  また、このガイドラインに沿って計画を作成することにより、防火対象物全体で、その特徴に応じた実効性のある計画・体制が構築されるよう、作成手順や基本構成、地震等の災害対応上のポイント等をまとめたものであります。


  ガイドラインで大事な事は、一律に形式を示すものではなく、管理権原者のもとで、消防計画を主体的に作成するプロセス自体が、実効的な体制構築に資するものであることに主眼を置いています。  なお、事業形態の違いに応じて着目する危険性や求められる対応等に差異があるため、本ガイドラインを踏まえ、主要な事業形態毎に消防計画作成上の留意事項を追加していくこととされた。

 

3 消防法改正の主な改正点
消防法においては、従来から、消防法第8条により、火災の予防及びその被害の軽減のため、消防計画を定めこれに基づき防火管理上必要な業務を実施することとされているが、今回改正消防法第36条により、火災以外の政令で定めるものについて、その被害の軽減のため特に必要のある建築物に上記規定が準用されることとなったので、防災管理の対象となる災害、防火対象物および主な改正点は次のとおりである。

(1) 防災管理の対象となる災害(令第45条)
 ・地震のうち東海地震、東南海・南海地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震や首都直下地震の発生の切迫性のある大規模地震災害    が対象となり、実際には、震度6強程度の地震被害を想定し、これに基づいて消防計画を作成すべき地震が対象になります。


 ・毒劇物質の発散その他の総務省令で定める原因で生ずる特殊災害(NBCR 災害)が対象となり、消防計画上の対策は、通報連絡、避難誘導のみの実施となります。


 ・その他の事故等についても通報連絡や在館者の避難誘導が必要なばあいには、火災、地震における実施体制や要領等について共通する部分が多いため対象とし、消防計画上の対策は、通報連絡、避難誘導のみの実施となります。

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(2) 防災管理の対象となる防火対象物(令第46条)
 防火管理の対象となるのは、多数の人が利用する大規模・高層の防火対象物などの消防防災上のリスクが大きく自衛消防隊を設置しなければならない防火対象物の要件に該当する建物です。


 ただし、複合用途防火対象物(16項)にあっては、自衛消防隊の設置対象部分のみに自衛消防隊の設置義務がかせられているのに対して、防災管理については、用途にかかわりなくすべての部分に防災管理者の選任等の義務がかせられています。
 対象要件は次のとおりであります。


【用途】
百貨店、旅館・ホテル、病院、学校、オフィスビル、地下街等の全ての用途(共同住宅(5項ロ)、格納庫(13項ロ)、倉庫(14項)等は除く)
【規模等】
①延べ面積5万㎡以上
②階数5以上かつ延べ面積2万㎡以上
階数11以上かつ延べ面積1万㎡以上
地下街で延べ面積1000㎡以上


※従来からこれらの防火対象物においては、大規模、高層、その他消防防災上のリスクが大きく、全体の状況把握や応急活動が困難となるものであることから、防災センターにおいて総合操作盤等を中心に一元的な消防防災システムの構築が図られてきたところです。

 また、対象外となっている防火対象物の消防計画においても、大規模地震等への対応等について本ガイドラインを参考とすることが望ましいと考えられ、この場合においては規模や用途の違い等から生じる対応の差異に留意して計画の検討し行う必要があります。

 

 

(3) 防災管理者の選任と届出(法第36条において準用する第8条、令第47条)
 
地震の災害による被害の軽減のため、管理権原者は、防災管理者(新設)を選任し、届け出ると共に消防計画(防災管理編)の作成、届出、当該消防計画に基づく防災管理上必要な業務を実施させることこが義務付けられた。

防災管理者の資格は、次の1、2の要件を両方満たすものである。

1        防災管理上必要な業務を遂行できる管理的又監督的な地位にある者。

2      必要な知識技能を有する者。

         ・甲種防火管理者の資格を有する者が、防災管理新規講習(5時間)を受講した場合(規則第51条の7第2項)

         ・防火・防災管理新規講習(14時間)を受講した者。

         ・消防職員で管理監督的な職に1年以上の経験のある者。

         ・消防団員で管理監督的な職に3年以上の経験のある者。

 

 ただし、法36条第2項により、防災管理者は、防火管理業務を併せて行うこととなったことから、防災管理者と防火管理者は同一人でなければならず、委託する場合は防火・防災管理業務を合わせて行わなければならない。

 また、甲種防火対象物の小規模テナント部分の特例により乙種防火管理者の資格で防火管理者を選任されていた部分について防災管理業務の対象となる場合は、防火・防災管理新規講習(14時間)を受講しなければならない。

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消防法改正概要

(4)消防計画の作成と届出(令第48条、規則第51条の8)
地震等のサイン外による被害軽減のために、管理権原者に指示を受けて、防災管理者が、消防計画を作成し、消防長へ届け出るこ とが義務付けられた。


消防計画に盛り込むべき項目は、規則第51条の8の規定及び「消防計画作成ガイドライン」等に例示された事項を防火対象物の実態に合わせて取り入れることが必要であるが、特徴的なものは、次のとおりである。


<特徴>
・地震発生時の被害の想定及びその対策を盛り込むこと。
☆ 火災については、建築構造、消防設備等においてその極限が織り込まれている。
☆ 地震については、建築物全体で同時多発的にその影響が生じることから、その被害を事前に想定し対策(業務内容、実施体制)を検討することが不可欠である。


・訓練を検証して消防計画を見直すことを明文化すること。     
・PDCAサイクルによりベターな体制を構築していくこと。
・NBCR災害については、関係機関への通報及び避難誘導の実施を求めること。
       

なお法第36条より防災管理者と防火管理者が同一人であることから防災管理に係る消防計画と防火管理に係る消防計画は、一本化することが望ましい。

5) 自衛消防組織の設置と届出(法第8条の2の5)
  災害時の応急対策を円滑に行い、防火対象物の利用者の安全を確保するため、多数も者の出入りする大規模防火対象物について、自衛消防隊の設置が義務づけられた。

 ア 自衛消防組織の編成
・自衛消防組織の全体の指揮をするものとして総括管理者(自衛消防隊長)を配置する。(令第4条の2の8、規則第4条の2の13)
 総括管理者の資格は、自衛消防業務講習受講者(新設)等の法定資格者でなければならない。


・要員の配置については、基本的な自衛消防業務(1初期消火活動、2情報の収集、伝達、消防設備等の監視、3在館者の避難誘導、4在館者の救出救護)について最低2名以上の要員が必要である。


・自衛消防隊は、本部隊と地区隊とで編成するが、内部組織を編成する場合は、本部隊の基本的な自衛消防業務(1〜4)の各班の班長(総括者)には、自衛消防業務講習させなければならない。


 このことは、教育の一環として消防計画に記載しなければならない。


イ 自営消防組織の設置に伴う消防長等へ届出が義務付けられた。(法第8条の2の5 規則第4条の2の15)
ウ 自衛消防組織未設置の際の設置命令が新設された。
エ 防火対象物の使用禁止命令の要件等に自衛消防隊組織設置命令違反等が追加された。

 

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6)防火管理点検の実施と報告(法第36条において準用する第8条の2の2)
防災管理業務の実施が義務となる対象物全てが防災管理点検制度の対象となり、管理権原者は、防災管理点検資格者(新設)の点検を年1回受け、その結果を消防長等に報告することが義務付けられた。(防火対象物点検の対象外でも義務となることがある。)

<主な点検事項>
・防災管理者選任の届出及び防災管理に係る消防計画作成の届出
・自衛消防組織設置の届出
・防災管理に係る消防計画に基づく防災管理業務が適切に実施されていること。
・共同防災管理の協議事項の届出  
・避難施設等が適切に管理されていること。
ただし基本的にはソフト面に限定されている。


<防災管理点検資格者>
 以下の者で、登録機関が実施する講習(8時間)を受講したもの。
・防火対象物点検者として3年以上の実務経験を有する者
・市町村の消防職員で、防災管理に関する業務について1年以上の実務経験を有する者。
・防災管理者として3年以上の実務経験を有する者。


<防災基準点検済証>(規則第51条の12第2項において準用する第4条の2の4第1項)
・防火対象物点検・防災管理点検の両方が義務となる防火対象物は、両方の表示要件を満たしている場合のみ、防火・防災基準点検済証として1枚のみ表示することができる。

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(7)共同防災管理協議会の設置と協議事項の届出(法36条において準用する第8条の2、規則第51条の11において準用する第4条の2)


防災管理業務の実施が義務となるが防火対象物で管理権原が分かれているものは、防災管理上必要な業務について協議して定め、消防長等へ届出することが義務付けられた。

<共同防災管理協議事項>
・共同防災管理協議会の設置運用に関すること。
・共同防災管理協議会の代表者の選任に関すること。
・総括防災管理者の選任及び付与すべき権限に関すること。

(防災管理者となる資格が必要)
・全体の消防計画の作成及びその計画に基づく避難の訓練の実施に関すること。
・避難口等の避難施設の維持管理。案内に関すること。
・地震等の災害が発生した場合の通報訓練。避難訓練に関すること。
・消防隊に対する必要な情報提供。誘導に関すること。
・その他の共同防災管理に関し必要な事項。


※共同防火管理協議会と共同防災管理協議会は、同じ組織等(共同防火・防災管理協議会、総括防火・防災管理者等)とすることが望ましい


※共同防災管理の全体の消防計画については、共同防火管理全体の消防計画と合わせて一つの計画と刷ることが望ましい。
 なおこの場合、協議事項の届け出様式は、共同防災管理と2枚となるが、中身の協議事項は一つでよい。
 また被害想定の反映等についても指導することが必要である。

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